読書案内

短篇小説よりも短い作品を集めたアンソロジーをご紹介しています。

日本文学から海外小説、ショートショート、エンタテインメントまで、どれも一読の価値あり。

読みごたえ十分の超短篇小説集を集めてみました。

SUDDEN FICTION 超短編小説70 (文春文庫)

ロバート・シャパード/ジェームズ・トーマス編

 村上春樹/小川高義訳

 

ヘミングウェイ、カーヴァー、ブラッドベリーなどアメリカの超短編小説70作品を集めたアンソロジー。変幻自在の576ページは読みごたえありすぎて読了するのが大変なほど。作品によって読者の好みも分かれるかもしれませんが、ショートショートというジャンルを飛び越えて新しい文学を生み出そうとする、作家と編者の心意気が一つの壮大な世界をつくりあげています。この本を企画した際に多くの作家から寄せられたという、短編小説やショートショートについてのそれぞれの見解が巻末にまとめられ、それ自体がごく短い小説のように面白く読めます。村上、小川両氏の翻訳で読み分けるのも楽しい。

SUDDEN FICTION 2  超短編小説・世界篇 (文春文庫)

ロバート・シャパード/ジェームズ・トーマス編 柴田元幸訳

 

前作『SUDDEN FICTION』は200以上の大学で教科書に採用され、各国に翻訳紹介されるなど好評を博した。それではと編まれた続編は、アメリカを飛び出しヨーロッパ、南米、アジア、アフリカなど世界各国の超短編小説を集めています。目次にはボルヘス、ガルシア=マルケス、カルヴィーノ、川端康成など20世紀文学の錚々たる作家が並ぶ一方、世界的には知られていない作家の名前がそれらビッグ・ネームに差し挟まれています。この本が一般的な世界文学全集と異なるのは、超短編であるということ以上に作家のバラエティさにあるのかもしれません。そしてそれがこの本の豊かさになっているのは間違いありません。小説ごとにそれぞれの作家世界があるので、読み手にもそれなりのエネルギーが求められるでしょう。世界中を旅するくらいに。

未来いそっぷ(新潮文庫)

星新一 著 

 

言わずと知れた日本ショートショート界の大御所。星製薬の御曹司でもあったことは有名ですが、そもそもショートショートというジャンルを確立させた立役者といってよいでしょう。実に生涯1,000篇以上の作品を遺しましたが、なかでも当該作品はいそっぷ童話を彼一流のウィットで料理した異色の作品集です。当代一の才能をご堪能あれ。 

 

掌の小説(新潮文庫)

川端康成 著

 

「掌編小説」の代名詞ともいえる小説集です。川端康成は多くの掌編を書く一方、その意義を明らかにする評論も残すなど、ごく短い小説という型式にこだわりを持ちつづけた作家です。若き日の掌編に自己嫌悪し「私の歩みはまちがっていた」と述べたというエピソードなどは、執着の強さを物語っているようにも思えます。自伝的な作品から伊豆に取材したもの、物語性の強いもの、幻想的な作品、などなど瑞々しく多彩な作品群は読むほどに胸の深いところに沁みてきます。122編を所収。

一人の男が飛行機から飛び降りる(新潮文庫)

バリー・ユアグロー著  柴田元幸訳

 

奇抜な発想、独特のスタイルで一行目から読者を不思議な世界へと引きずり込むアメリカの超短編作家バリー・ユアグロー。ことばによって積みあげられた〝美しい悪夢〟が149編、星空のように散りばめられています。現在形でひたすら進む文章はどちらかといえば親しみにくく、大きな盛り上がりも意外な結末も用意されず、ときには放り出されたような感覚に戸惑いさえ覚える。けれどもどういうわけかまたページを捲りたくなるのは、この作家にしかないシュールで愛おしい作品世界がそこにあるから、なのでしょう。書かれていることの意味を考える必要はない。

二十四粒の宝石 超短編小説傑作集(講談社)

赤川次郎 他 著

 

赤川次郎、小池真理子、高村薫、浅田次郎、藤田宜永、北方謙三ら人気作家24人による超短編集です。巻末の解説を長らくNHK「週刊ブックレビュー」の司会をつとめた俳優・児玉清さんが執筆しています。息の長い文章で綴られた、掲載作24本を作家の年代順に触れながら称賛していくこの楽しい解説は〝二十五粒目の宝石〟であり、サブタイトルに〝傑作集〟とついたこの本の、もしかしたら一番の傑作かもしれません。

芝生の復讐(新潮文庫)

リチャード・ブローティガン著  藤本和子訳

 

1960年代、200万部のベストセラー『アメリカの鱒釣り』で一躍人気作家となったアメリカの詩人・小説家ブローティガンの、もう一つの傑作短編集です。一見明るい、軽やかな語り口。冴えわたるユーモア。しかしなぜか同時に伝わってくる強烈な孤独、どこか病に冒されたような、渇いた肌触り。不可思議で独特な語り口は、アメリカよりも日本での評価が高いといわれるブローティガンの翻訳のほとんどを手掛ける藤本和子氏により、原文以上かもしれない文章で再現されています。たった二行の小説「スカルラッティが仇となり」などは、本文以上にタイトルの貢献度が高い。しかしこの見落としてしまいそうなささいなユーモア小説が、アメリカのある一面を鋭く切り取ってみせていることに読者は驚くでしょう。

 

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